第1章 殺し屋
「じゃあ、その理由、じっくり吐かせることにするよ」
そう言って彼はハルの手を引いて建物から出た。
「えっ、」
訳もわからないまま近くにあった車に乗せられ、シートベルトを締められる。
エンジン音がかかり、なんのBGMもないまま車は動き出した。
長い沈黙を最初に破ったのは彼だった。
「誰かの葬式だったのか?」
急な彼の言葉に反応が遅れる。
どうしてそれを、なんて一瞬戸惑うもの、今自分が来てるのは全身カラスのように真っ黒の喪服。法事帰りなことは誰がみても明らかだった。
「あ、はい。まぁ」
はっきりしない私の答えに彼はふうん、と興味なさげに相槌を打ち、話を続けた。
「あの道はよく通るのか?」
「…いえ、普段はまったく」
「じゃあなんで今日は?」
「……」
私は言葉を探した。あの路地裏を通った先には“あの人“がよく連れてってくれた夜景が見える丘があった。3回忌の帰りに足が勝手に向かったのだ。
「だんまり、か。まぁいい。そろそろ着く。」
彼がそう言ったので窓の外を見ると
ハルたちはどこかのマンションの駐車場にいた。
車から降り、そのままハルは彼について行った。
エレベーターのランプが数回点灯した後、ドアが開いた。
704と書いてある部屋の鍵を開け、
彼は部屋に入るよう無言でハルを促した。
大丈夫、だろうか。ここまで半ば強制的に、でも自分の意思でついてきてしまった。不安な心を押さえ、部屋の中に足を踏み入れた。
しかし、そこにはなんの変哲もない、普通の生活が広がっていた。
ガチャっという音と共に彼は部屋の鍵を閉め、チェーンをかける。ハルは拍子抜けして玄関を見渡した。
普通の、綺麗な部屋だ。
丁寧な暮らしをしてる人の、部屋だ。
「ワン!」
「…い、犬?」
玄関で棒立ちをするハルに白い犬が尻尾を振って飛びついたことでハルの警戒心が少し薄れ、殺人鬼の家に来ていることを束の間に忘れてしまった。