第2章 ポアロ
「今日は大学ですか?」
いつも彼が飲むブラックコーヒーを出して人の少なくなったポアロで少しお話をする。
「いえ、今は冬休みの時期でして。
天気もいいのでカフェにでも行こうと思いましてね」
「そうなんですね
あの後、すぐお家見つけられましたか?」
「ええ、知り合いが海外にちょうど行くことになったので、彼の家をそのまま借りることができたんです。」
「わぁ、すごい偶然!昴さんラッキーですね」
「それを言ったらハルさんこそ。火事の数週間前に引っ越すなんて、まるで未来予知してたみたいです」
「あはは、未来予知なんて。たまたまその…、知り合い?のうちに入り浸ってだっていうか。まぁ荷物はほとんど燃えちゃったんですけどね。」
誤魔化すように笑った私に、少し間を空けてニコっとした昴さんに少し安心する。彼は親身になってくれて、それでいて深いところには入り込もうとしないでくれる。そういう優しい距離感を保ってくれる。
彼は知らないだろうけど、私は昴さんにたくさん救われているのだ。
前に住んでいたアパートの隣人さんで、私の最悪な時期に知り合った人で。彼のおかげで色々気を保てたと言っても過言ではないかもしれないくらい、頼りにさせてもらってる方だ。
少し前にアパートで火事があり、お互い家無しになって、隣人関係は終わってしまっても、こうして話し相手になってくれている。
「ハルちゃん、これサンドイッチです!
よかったら少し早上がりして昴さんと遅めのランチでもしてください!」
「え!梓ちゃん、そんな悪いよ」
「いえ!ハルさん忙しい中クローズの準備もしてくれたから、むしろこっちがありがとうです!」
そう言って梓ちゃんは鼻の穴を膨らませて手を硬く結んで意気込んでみせた。
「ほんと…?じゃあ、上がらせてもらっちゃおうかな!
昴さんもご一緒するの、迷惑じゃないですか?」
「もちろん。こんな素敵なレディとご一緒できるなんて光栄です」
「ふふふ、よかった。ありがとうございます」
いつもの昴さんの芝居めいたキザな言い回しに笑って
バックヤードに戻った。