第118章 青い花の秘密
「……間違いない」
低く呟くと、背後に控えていた男が問いかける。
「博多から渡って来た青い花…それが本当にあの中に?」
「織田信長ほどの男が、空の長持を大勢の兵に運ばせるものか」
笠の男は鼻で笑う。
「京では、信長が青い硝子の花を帝へ献上するという噂で持ちきりだ。急がねば、花は御所へ渡る。そうなると容易に手出しできなくなる」
「ですが…寺の警備は厳重、信長の供には明智光秀や豊臣秀吉もおります」
その両名の名に、笠の男の目が細められた。
「狐と猿か。厄介ではあるが…」
静かな口調とは裏腹に、男の目は厳しさを増す。
「だからこそ今夜だ」
男はゆっくりと立ち上がり、寺を見下ろせる高台へ視線を向けた。
本能寺の周囲は昼間でもひどく静かで、人の行き来も少なかった。
「信長の参内はおそらく明日以降になるだろう。道中無事に京へ到着したことで、今宵は兵達にも気の緩みが生じるはずだ。その一瞬の隙を突く」
「しかし、本当にあの長持の中に?」
なおも半信半疑なのだろう、部下からの問いに、男はすぐには答えなかった。しばしの沈黙の後、低い声が落ちる。
「あの長持を積んだ荷車だけ、他と比べて僅かに警護の数が多かった。同じように見えて僅かに違っていた。間違いない。花はあの長持の中だ」
「はっ」
部下達は一斉に身を翻し、寺の周囲へ散っていった。
残された男は今は固く閉ざされた寺の門を見つめ、静かに息を吐く。
「七つの花は全て我らが手に入れる」