第118章 青い花の秘密
その時、ひとつの品が目に留まった。
それは、小さな箱に収められた深い青色の硝子細工だった。花の形をしていて、繊細な花びらが一枚一枚丁寧に形作られている。夜空を閉じ込めたような色合いに惹かれ、目が離せなかった。
「それが気になるか」
朱里の視線の先に目敏く気付いた信長は、手にしていた扇子の先でそれを指し示す。すかさず宗伯が箱を持ってにじり寄る。
「どうぞお手に取ってご覧下さい」
宗伯に勧められ、朱里はそっと箱の中の硝子細工を持ち上げた。
思っていたよりも軽い。陽の光を受けた花びらは、青から紫へと色を変えながら煌めき、まるで本物の花に朝露が宿っているかのようだった。
「綺麗……」
思わず零れた声に、宗伯は満足そうな笑みを浮かべた。
「お目が高うございますな。それは南蛮渡りの硝子細工にございます。このような硝子細工は職人が一つ一つ手作業で作り上げるため手間もかかり、同じものでも少しずつ趣きが違って参ります」
「そんなに貴重なものなのですか」
朱里は手に持ったままの硝子細工を両手で大事そうに包み込む。
宗伯はゆっくりと頷いた。
「はい。このような色硝子は南蛮船によってもたらされますが、海を越えて運ばれる間に割れてしまうことも多うございます。ましてや、このような細工物となれば数はごく僅か」
「では、かなり高価なものなのですね」
「小さな品ではございますが、良い刀が一振り買えるほどの値が付いてもおかしくはございませぬ」
「えっ!?」
思わず声を上げた朱里は慌てて両手に力を込めた。
落としたら大変だ。そんな思いが顔に出ていたのだろう。
「そう固くなるな」
信長が愉快そうに口元を緩める。
「宗伯とて売り物を無造作に触らせたりはせぬ」
「は、はい……」
そうは言われても何だか不安になって朱里はおそるおそる硝子細工を箱へと戻した。
それでも名残惜しくて、最後にもう一度だけ青い花へ目を向ける。
夜明け前の空のような深い青。
光を受けるたびに紫や藍色へ姿を変える花びら。
戦国時代とは思えないほど幻想的な美しさだった。
そんな朱里の様子を見ていた宗伯が、ふと目を細めた。
「奥方様は硝子細工がお好きで?」
「好きというか…こんな綺麗なものは初めて見ました。一体どのように作られるのかと…」
「ほぅ…」
宗伯が感心したように声を漏らす。
