第118章 青い花の秘密
「多くの者はまず値を尋ねます。高ければ高いほど良いものだと信じる。だがしかし、奥方様は品そのものの価値をご覧になられるようだ」
「え?」
「商いをする者にとって、それは嬉しいことにございます」
宗伯は穏やかに微笑んだ。
品の価値を金額だけで測る者は多い。
だが、本当に良い品は人の心を動かす。
長年商いに携わってきた宗伯には、それがよく分かっていた。
「気に入ったのであれば、それは貴様が持っておけ」
不意に響いた信長の声に、朱里は目を瞬かせた。
「の、信長様?」
「俺よりも貴様の手にある方が相応しい品だ」
「で、でも高価な品なのでしょう?いただけません!」
「値段など関係ない。貴様は俺の妻だ。遠慮はいらん」
信長は不敵に笑う。本当に値段など気にしていないようだ。
宗伯は二人のやり取りを面白そうに聞きながら、ゆったりと表情を緩める。
「さすがは織田様。何とも豪気なことで」
「代金は払う。これは俺から妻へ贈るのだからな」
「いえ、とんでもございませぬ」
宗伯は慌てて深々と頭を下げる。
「お持ちした品は全て、この宗伯が織田様へ差し上げるものでございます。お代は一切いただきません」
そう言うと、宗伯は恭しく頭を下げた。宗伯の言葉に信長は満足そうな笑みを浮かべる。
話がまとまったとばかりに互いに笑みを浮かべる二人を見比べて、朱里は慌てたように声を上げた。
「待って下さい!本当にいただけません!」
「何故だ」
「だ、だって、刀一本分のお値段なんですよ!?簡単にもらうわけには…」
「刀と花、どちらが貴様を喜ばせるかなど決まっておろう」
さらりと言われて、朱里は言葉に詰まってしまう。
刀と花。
戦国の世において比べるまでもないものだ。武将である信長なら尚更、良き刀を持つことは武士としての誉れである。
だが、信長は迷いなく花を選んだ。自分のためではなく、朱里のために。
「信長様……」
朱里が戸惑ったように視線を向けると、信長は当然のことを口にするように言った。
「貴様に刀は似合わん」
「それはまあ、そうですけど…」
「女子は美しいものを愛でるのが好きであろう」
「そうですね」
「ならば持っておけ」
有無を言わせぬ調子で言い切られてしまい、朱里はそれ以上抗うこともできず、手の内の硝子細工をそっと見つめた。
