第118章 青い花の秘密
朝餉の後、信長に呼ばれて広間へ行くと、そこには沢山の煌びやかな品々が所狭しと並べられていた。
反物、金や銀の細工物、茶道具などのほか、見たこともない品も多い。
「信長様、これは…」
「宗伯からの献上品だ」
そう言って信長が視線を送った先に、昨日会った博多の商人、宗伯が控えていた。
「明や南蛮との交易による品々を持って参りました。奥方様のお気に召すものがあれば幸いでございます」
昨日と同じく恭しく頭を下げる宗伯に恐縮しつつ、信長の傍へ歩み寄る。ほんの少し距離を空けて隣に座ろうとしたその時、ぐいっと手を引かれて……
「きゃっ…」
よろめいて体勢を崩し、信長の胸元に倒れ込んでしまった。
(ま、また…)
予期せず昨日と同じ状況になり、慌てて身を起こそうとするが、信長の腕に絡め取られて叶わない。
「の、信長様っ…」
半ば諦めつつも抗議の意味を込めて訴えてみるが、信長の腕は緩まない。肩を抱き寄せられ、膝をするりと撫でられる。
(っ…あっ……)
膝を撫でる指先にびくりと肩を震わせると、信長は面白そうに目を細めた。
宗伯はさすが商人というべきか、表情一つ変えずに控えていたが、その目の奥にはどこか愉快そうな光が宿っているようにも見える。
益々居た堪れなくなって小声で訴えてみる。
「信長様、離して下さい」
「ならん」
即答だった。
「貴様は俺の妻だ。傍近くに居ればよい」
そう言って信長は朱里の肩を抱いたまま、目の前に並ぶ品々へ視線を向ける。
「それより見てみろ。宗伯が選りすぐった品だそうだ」
話題を切り替えられ、私はようやく並べられた献上品へ目を向けた。
鮮やかな色合いの異国の反物。
繊細な細工が施された銀器。
透き通るような色の硝子細工。
どれも美しく、その目新しさに思わず感嘆の息が漏れる。
「綺麗……」
その一言に、宗伯が恭しく頭を下げた。
「奥方様のお気に召したのであれば何よりにございます」
「ありがとうございます。でも、こんなに沢山……」
「お気になさらず。此度、織田様とのご縁が繋げましたこと、大変ありがたく思っております。これはほんの御礼のしるしでございます」
穏やかな口調だが、その言葉には商人らしい抜け目のなさも感じられる。