第118章 青い花の秘密
「どうした、朱里…っと、悪い、支度の途中だったか?」
鏡台の前で固まる朱里に目を止めて秀吉が慌てて視線を逸らそうとするが、その瞬間何かに気が付いたようにふっと動きが止まる。
「お前、それ…」
言いにくそうに口籠もる秀吉の視線の行方に気付いた朱里は慌てた様子で背を向ける。
「な、何でもないから!」
「いやいやいや…何でもないわけないだろ!そんな目立つやつ」
「うるさいぞ、秀吉」
信長は読み終わった文を渡しながら秀吉をギロリと睨む。
「俺のものをジロジロ見るな」
「御館様っ!朱里は物ではございません。仲睦まじいのは結構ですが少しは加減というものを…」
「貴様、俺に加減ができると本気で思っているのか?」
「そ、それは…」
妙に既視感のある台詞を吐く信長と頭を抱える秀吉の間で居た堪れない思いになりながら、朱里は首筋を押さえて途方に暮れる。
隠れぬ場所に証を刻んだのは、信長の激しい独占欲の現れであり、愛されている実感に嬉しい気持ちが込み上げるが、人に見られるのはやはり恥ずかしい。
「とにかく、あまり朱里を困らせないで下さい」
秀吉が深い溜め息を吐きながら言うと、信長は面倒そうに片眉を上げた。
「困らせてはおらん」
「困ってるでしょうが!恥ずかしい思いをするのは朱里なんですよ」
「俺に愛された証だ。何を恥じることがある?堂々と見せつけてやれば良い」
「御館様っ!」
秀吉の叱言を軽く聞き流すと、信長は鏡台の前で途方に暮れる朱里の元へとやって来る。
「隠さずともよい。堂々としておれ」
「でも…目立つのは少し恥ずかしいです」
頬を赤くして俯いてしまう朱里を見ては、それ以上無体なことも言えない。信長は朱里の顎にそっと指を添え、俯いた顔を覗き込む。
「まあ、さほどに気になるのなら…次からは見えぬ所に付けてやってもよい」
信長にしては珍しく譲歩するような発言に、朱里はぱちりと瞬きをした。
「最初からそうしていただければ良かったのですが」
苦々しげな表情で嫌味っぽく言う秀吉に向かって、信長は不敵な笑みを浮かべる。
「俺だけが見られる場所に付けてやろう」
「…?なっ…そ、それは…」
信長だけが見られる場所…その言葉の裏に隠された艶めいた響きに秀吉の頭の中が想像で一気に湧き立った。
「御館様ぁっ!」
静かな天主に秀吉の大声が響いた。
