第118章 青い花の秘密
恨めしげに呟かれた声すら、愛おしい。
腕の中に閉じ込めた朱里を満足そうに見遣り、その頭の上に小さく口付けを落とす。
何度口付けても足りない。人前だろうと構わない。二人きりなら尚更だった。
「朱里…機嫌を直せ」
「っ……」
「そうして拗ねた顔も愛らしいが…」
「す、拗ねてなど…おりません」
そう言いながらも、朱里は信長の胸元から視線を逸らす。そのあからさまな様子に、信長は低く喉を鳴らして笑う。
「ならば何故、俺を見ぬのだ」
「だって…恥ずかしくて…」
「ん?」
朱里の耳がほんのり赤く染まっているのに気付き、信長の口元が愉快そうに歪んだ。
「人前であんなこと…」
昼間のことを思い出しているのだろう。頬を朱に染めながら言いにくそうに言葉を濁す。
商人との謁見の場でも、家臣達が出入りする執務室でも、信長は人目を気にすることなく朱里へ触れた。
肩を抱き、頬や髪に口付けを落とし、膝枕まで……
まるで誰の目にも明らかな形で、自分のものだと誇示するかのようだった。
「嫌だったか?」
「嫌…ではないですけど」
嫌ではない。愛しい人と触れ合えるのは嬉しい。信長が大事そうに自分に触れてくれているのが分かるから、触れられることで幸せを実感できた。
「信長様が私を大切に思って下さっていることも、愛して下さっていることも分かっています。だから…」
だから無理に見せつけなくてもいいのに。
そんな意味を込めて腕の中から見つめると、信長はしばらく黙り込んだ。
「ふっ…」
やがて、珍しく少し自嘲気味な笑いを溢す。
「信長様?」
「いや…俺も少々大人げなかったかと思ってな」
「……どういう意味ですか?」
朱里が不思議そうに小首を傾げると、信長は腕の中の彼女を見下ろし、ゆっくりと髪を撫でた。
「貴様は気付いておらぬかも知れぬが…彼奴らの貴様を見る目が気に入らなかった」
「えっ…?」
耳元で低く囁かれた思いがけない言葉に目を瞬く。
「別に…不躾に見られたりはしていませんよ?皆、礼を尽くしてくれて…」
「礼を尽くすことと、見惚れることは別だ」
さらりと言われて、朱里は思わず言葉を失った。
確かに、謁見では宗伯殿に「見惚れていた」と言われたが、そんなものは挨拶代わりの世辞の一つだと思っていた。家臣達に至っては
普段通りで特別気にすることもなかった。
