第1章 君の中に墜ちる
苛立ちを含んだような声に驚いてしまい言葉をなくしていると、大倶利伽羅のその端正な顔は眉間にしわを刻み、どことなく苦悶に満ちているようだった。
そんなになる程…
あの夜の出来事は大倶利伽羅にとっては忘れたい事であり、不快なものだったのだろうか。こうやって感謝されても困るし、そんな気持ちすら重いということなのだろうか。
軽率な行動をとってしまったと、自身の愚行を悔やんでいるの……?
好意で抱かれた訳じゃないことは百も承知の上だったけど、あからさまにそんな態度を取られるのは流石に堪える。いよいよ同じ空間にいるのが辛くなってきて下唇をぐっと噛みしめた。
ショックで、悲しくて、だけどこの場を立ち去る訳にもいかず涙を堪えながら膝を抱えて俯いていると、大倶利伽羅のボソリと呟く声が聞こえた。
「同情で抱いたんじゃない……俺は…あんたが思っているほど優しくはない」
大倶利伽羅の言っている意味がわからなくて、顔を伏せたまま彼の言葉を待った。庭の草むらから虫の声がやけに大きく聞こえる。
「あの日の夜…あんたに迷いがあるのはわかっていた。だが、俺はあんたが欲しくて…それに気付かぬふりをして抱いた。卑怯なのは俺の方だ」