第4章 心の縁-よすが-《前編》
「おちびちゃんに、宜しくね」
その言い方には全部知っている者の柔らかな含みがあった。大倶利伽羅はわずかに眉を寄せ、思わずため息を落とす。
「…余計なお世話だ」
「余計じゃないよ。伽羅ちゃん最近すごく穏やかな顔してる。あの子のおかげだよね」
大倶利伽羅は図星を突かれたように目を逸らし、うっとおしそうに眉をよせた。
「…もう行く」
「はいはい、行ってらっしゃい」
背後から手を振る気配がしたが振り返らなかった。客間へ続く廊下に一歩踏み出すと、そこだけ空気が少し暖かくなる気がした。
その先に、小さな温もりが待っていることを彼自身が何よりよく知っていたから。
客間に大倶利伽羅が着くと、あんずが嬉しそうに駆け寄ってくる。そして差し出される小さな手には王子さまの絵本。大倶利伽羅は一瞬だけ目を伏せ、黙って受け取った。
「…またこれか」
「うん。おうじさま」
「…はあ」
あんずはどうもこの話が気に入っているようだった。大倶利伽羅が腰を下ろすと、あんずも決まって足の間に入り込む。
毎夜同じページを同じ順番で開く。声も、調子も変えていない。