第4章 心の縁-よすが-《前編》
小さな指が、絵本の王子さまの姿をなぞる。
――王子さまは、『だいじょうぶだ』とは言いませんでした。でも、いつもそばにいてくれました。
絵本の読み終わりに近づくにつれ、あんずの瞼が重くなる。最後のページを閉じたときにはもう半分夢の中だ。
「…おやすみ」
大倶利伽羅がそう言うと、あんずはかすかに笑って敷かれている布団に横になった。
「……また、よんでね。おうじさまのおはなし」
返事はしなかった。けれど、布団を直す手つきはどことなく丁寧だった。
それから夜になると、あんずは客間へ向かうようになった。その習慣は誰が言い出したわけでもなく、気づけば本丸の静かな日常に溶け込んでいた。
大倶利伽羅が温い灯りの落ちた廊下を歩いていると、角を曲がった先で待っていたように燭台切が声をかけてくる。
「今夜も行くのかい?」
軽い調子だけどその目はどこか嬉しそうで、からかい半分の色が混じっている。
大倶利伽羅は足だけ止め、顔は向けずに短く応じた。
「…誰にも言うな」
「言わないよ?言わないけど――」
燭台切は楽しそうに肩をすくめ、ちらりと視線だけ彼へ送る。