第4章 心の縁-よすが-《前編》
「読むぞ」
それだけ言って彼は表紙を開く。声は低く抑えられている。誰かに本を読んだことは一度もないし、決して上手とは言えないだろう。それに感情を込めるつもりもさらさらない。
――夜になると、王子さまは城を出て、静かに町を見回りました。
大倶利伽羅が読み始めると、あんずはすぐに身を起こした。きらきらと目を輝かせ、絵の中の挿絵を覗き込んでいる。
「おうじさま、よるなのにおきてるの?」
「…仕事なんだろう」
ぶっきらぼうな声だったが、あんずは気にしていなかった。ただ読んでくれるのが嬉しかったから。
――王子さまは、眠れない子どもがいないか、怖い夢に泣いていないか、誰にも知られないように歩きました。
ページをめくる音がやけに静かに部屋に響く。あんずはいつの間にか、大倶利伽羅の立膝をした足の間に入り込み、彼に寄りかかっていた。大倶利伽羅も黙ってそれを受け入れている。
「ねえ……このおうじさま、つよい?」
「…ああ」
「やさしい?」
「…ああ」
「えらい?」
「さあな」
大倶利伽羅は一拍置いてからボソリと「だが、守ると決めている」と口にした。あんずはその言葉に満足そうに頷く。