第4章 心の縁-よすが-《前編》
否定はされなかった。でもそれが許可だとわかるほどあんずはまだ賢くはない。でも、拒まれなかったことだけは分かった。
――それからあんずは大倶利伽羅の事を、からちゃんと呼ぶようになった。
大倶利伽羅は相変わらず応えてはくれない。けれど、その名で呼ばれたときだけ、あんずを必ず視界に入れるようになっていた。
次の日の夜もあんずは部屋を抜け出した。その小さな手は大事そうに絵本を抱いている。昨夜の大倶利伽羅の次だ、という言葉をしっかりと覚えていたのだった。
大倶利伽羅も忘れてはいなかった。客間にはあんずがいつでも寝られるように、布団が敷いてある。
「よんで」
てっきり自分で読むのだろうと思っていた大倶利伽羅は、あんずのひと言に一瞬固まり目を見開いた。
「は……?」
「からちゃん、えほんよんで」
「…自分で見ろ」
「やだ」
間髪入れず距離を詰められ、目の前に絵本を差し出される。表紙には王子さまが描かれていた。
「…」
しばしの沈黙のあと、大倶利伽羅は諦めたように深く息を吐き、「…一回だけだ」とそう言って渋々絵本を手に持った。泣きわめかれたら面倒だったからだ。