第1章 君の中に墜ちる
呼び止められた大倶利伽羅は私が何か言い出すのを静かに待っている。
「ごめんなさい…何でも、ないの…」
結局何も言えずに唇を噛み締めながら俯くと、障子が閉められた後遠ざかっていく大倶利伽羅の足音が聞こえた。
私は…
彼を呼び止めてまで何を言おうとしていたのか。
傍にいて欲しい、なんて言えるわけがないし、言ったところで何になるのか。それこそ大倶利伽羅を困らせるだけだ。
その日は仕事もろくに手につかず、ずっと胸の内がざわざわして落ち着かなかった。
…
…
「あんず様!お喜び下さい、お見合いのお話をお持ちしました!」
「お見合い?」
「はい、この間行われた演練であんず様のことを大層お気に召された方がいらっしゃって。なんと、政府幹部のご子息です!やりましたねっ」
こんのすけから差し出された写真を見ると見たことのある顔が映っていた。
この方はそういえば、この間の演練でやたらと話しかけてきた同年代の審神者さんだ。気さくな人だったから会話が弾んだのを覚えている。政府関係者の息子さんだったなんて一言も言ってなかったなあ。
「最近のあんず様は霊力も漲っておりますしとても順調のように思えます。その上更にご子息と結婚という運びになれば審神者としての地位も安泰です!とにかく結婚相手としては申し分ないでしょう!」