第1章 君の中に墜ちる
胸の奥に宿った気持ちにモヤモヤしながらもすっかり元の生活に戻ったころ、大倶利伽羅が執務室に訪れた。珍しいな、と思ったがそういえば今回の部隊長は大倶利伽羅だったことを思い出す。
「お帰りなさい。出陣お疲れさまでした」
大倶利伽羅は何も言わず、簡素な報告書を机に置く。
元々無口で無愛想な刀だ。今までもそうだったし、私もそれ以上踏み入ろうとは思わなかった。だからこれが普通だ。
「…元気そうだな」
不意に聞こえた声。いつもの無愛想な感じではなく、少しだけ優しさと甘さを纏ったような音色に、報告書を取ろうとしていた手が止まる。見ると執務室の障子戸を開けながら、こちらを顔だけで振り返った大倶利伽羅が私を見つめていた。
穏やかで満足そうな表情に、心臓がトクン、と揺れ動く。
「大倶利伽羅の、お陰です」
「…そうか」
「ありがとうございました」
深々と礼をしながら言うと、ふ、と微かに微笑んだ大倶利伽羅の優しい表情に胸がキュッと締め付けられる。そのまま執務室を出ていこうとする大倶利伽羅に慌てて声を掛けた。
「あのっ」
何故呼び止めたのか自分でもわからない…でも行ってほしくない、そう思ってしまった。