第4章 心の縁-よすが-《前編》
そのとき、縁側の奥から母の声がした。
「…あら」
ゆっくりとした足取りで母が現れ、短刀たちがこぞって「主だ!」「あるじさん!」「あるじさま」と言う。あんずは目をキラキラさせながら母に嬉しそうに駆け寄った。
「ママ!とらさんいるの!」
「本当だ、可愛いわね…こんなに守ってもらって」
母はしゃがみ込み、虎とあんずを交互に見ている。そこへ虎の一匹が母の足元に近づきそっと座った。まるで、ここにいる人みんなが大切な存在だと分かっているみたいに。
母はそれを見て、幸せそうに微笑み静かに息をつく。
「ありがとう…」
あんずはいつまでもこんな幸せが続くと思っていた。だけどそれは……少しずつ、確実に母親である審神者の身体を蝕んでいった。
最初は、本当に些細なことだった。朝の支度に少し時間がかかるようになった。笑顔のまま、廊下の途中で立ち止まることが増えた。
「大丈夫よ」
そう言って母はいつも通りに振る舞う。声も、表情も変わらない。けれどある日——部屋の外でふと足を止めた大倶利伽羅は、襖の向こうから微かな音を聞いた。