第4章 心の縁-よすが-《前編》
「あんずはあたたかいね」
「ママもあったかい」
「そう?」
そう言って母は娘を抱きしめる。父はその様子を見つめながら、胸の奥に何かが沈んでいくのを感じていた。
当たり前のようで、当たり前でない時間。
失ってしまえば二度と戻らないひととき。
父はその二人を見て静かに目を閉じた。どうかこの時間が、少しでも長く続くように…声には出さず、心の中でただ祈った。
その頃、あんずは短刀たちとよく遊んでいた。母の部屋を出ると、廊下の先から賑やかな声が聞こえる。小さな足で駆けていくと、縁側に短刀たちが集まっている光景が目に入った。
毬を転がしたり、紙を折ったり…短刀たちは何やら忙しそうで、それでいて愉しそうだ。
「きた!おちびちゃんだぁ〜!」
短刀たちはあんずの姿を見るなり嬉しそうに手を広げた。
「ちがうよ、……あっ」
おちびちゃんと言われて、あんずはまた大倶利伽羅の時のように自分の名を口にしそうになったが、今度はしっかり口に手を当てた。あの後大倶利伽羅と名前を言ってはいけない、と約束したからだ。
「今日はね〜、かくれんぼなんだから♡」
「ぼくらのあそびにつきあってもらいますよ!」