第4章 心の縁-よすが-《前編》
父が母に問いかけると、母はにっこりと笑い「大倶利伽羅よ」と言う。父は意外な刀の名に驚いた顔をした。
「珍しいな……大倶利伽羅か」
「ふふ、ああ見えて意外と面倒見いいのよ」
「こいさんにね、えさあげたの!」
そう言って笑うあんずの口元には米粒がついている。父はそれを指摘しようとしてやめた。母が、嬉しそうにそれを見ていたからだ。
「あんずは最近はよくしゃべるし、よく笑うようになったな」
父がぽつりと言う。母は少し目を伏せてから頷き、あんずの頭を撫でた。
「この子が元気でいてくれるだけで…それだけで充分」
その言葉に父は何も返さなかった。返せなかった、というほうが正しい。あんずはまだ知らない…母の「それだけで充分」が、願いであり、祈りであることを。
食事を終えると、母は少し疲れたように息を整えた。父はすぐにそれを察して湯飲みを差し出す。
「無理するな。洗い物は俺がするから」
「…うん。いつもありがとう、助かる…」
母は湯を一口含み、ほっと一息ついた。その様子を見てあんずはそっと母の膝に近づいた。そして母の膝に頭を預け、安心したように目を細める。
母にとってはその小さな重みが少しだけ辛く、けれど何より愛おしかった。