第4章 心の縁-よすが-《前編》
母の声は小さいけれど温かくて柔らかい。座敷の奥で座布団に腰を下ろしていたあんずは、その声にぱっと顔を上げた。
「きょうはなあに?」
ぱたぱたと母の元に駆け寄ろうとして、父にそっと肩を押さえられる。
「こらあんず、走るな。お母さん今日は調子がいいだけなんだから」
「少しくらいだいじょうぶよ」
母はそう言って微笑んだが、その頬はどこか青白い。長く立っていられない体を知っている父は、黙って母の代わりに膳を運んだ。
食卓に並んだのは、質素だけれど丁寧に作られた献立だった。あおさのお味噌汁、肉じゃが、胡麻和え、小さな焼き魚。派手さはないが、どれも母の味だった。
「いただきまぁす!」
あんずが元気よく手を合わせると、母と父もそれに続いた。
「…あらあんず、今日はよく食べるのね」
母がそう言って、あんずの茶碗を見つめる。白いご飯はもう半分ほどに減っていた。お箸をちゃんと持てるようにと使っているトレーニング用のお箸。それを器用に動かして口に運んでいる。
「だっておいしいもん」
「今日は沢山遊んだみたいだしね」
「うん!」
「今日は誰と遊んでいたんだ?」