第4章 心の縁-よすが-《前編》
そして本丸のひと際奥にある襖の前で立ち止まり、軽く声を落とす。
「大倶利伽羅だ」
「…どうぞ」
母である審神者の返事を待ってから、そっと襖を開ける。中にいた母はその珍しい光景を見て一瞬息を止めた。
大倶利伽羅の腕の中で無防備に眠る娘。そして、その小さな身体を壊れもののように抱く刀。
「連れてきてくれたのね……ありがとう」
そう言われても彼は頷くだけだった。娘をそっと布団に下ろそうとした、その時…きゅっと服を掴んでいる指が強くなる。
「…」
ほんの一瞬、迷うように視線を落としてから大倶利伽羅は小さく息を吐いた。
「…このまま置く」
それだけ言って布団の縁に腰を下ろし、ゆっくりと腕を緩める。ようやく指が離れたのを確かめてから静かに立ち上がり、彼は振り返らないまま部屋を出ていった。
その夜、夕餉の支度が整う頃…部屋の中にはふわりと湯気と味噌の香りが広がっていた。
本丸の男士達よりかなり早めの夕餉。いつもは大広間で他の男士達も一緒に夕餉を食べるが、週1日だけ必ず家族団欒の日を設けていた。その時だけ母の手料理が食べられる。あんずはこの時間が好きだった。
「ご飯できたよ」