第4章 心の縁-よすが-《前編》
「そこから見ていろ」
そう言って背中を向けるその位置は——万が一でももう二度と落ちない距離だった。だけど小さいあんずにはその距離からはあまり鯉が見えなかった。
大倶利伽羅が餌を投げるたびにバシャバシャと鯉が跳ねる音は聞こえるが、肝心の鯉が見えない。
小さな足が砂利を踏み、大倶利伽羅に近付いた。そしてぎゅっとその赤い腰布の先っぽを小さい手が掴み、鯉を見ようと背伸びをして池を見る。
「……」
彼は一瞬動きを止め、はあ…と小さくため息を一つ吐いた。小さな指が自身の赤い腰布を握りしめているのを見下ろし、何も言わずにしゃがみ込んであんずと視線の高さを合わせる。
「…そら」
そう呟いてから再び抱き上げる。今度はさっきよりも、少しだけゆっくりで確かめるような動きだった。
「持ってろ」
あんずの小さな手に鯉の餌が渡される。大倶利伽羅は無言のまま、あんずの体を支える腕を少しだけ持ち上げ、池の方へ向けてやった。
抱っこされたままのあんずは、慎重に身を乗り出して餌をつまみ、ぱらぱらと水面へ落とす。
「おっきいねぇ!」
「こいさん、おっきいおくち!」
「…」