第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
私が彼の状態をちゃんと把握していればこんなことにはならなかった。私のせいだ。
震える手で彼の刀身を支えたとき、冷たい鋼の感触が指先に伝わった。
――早く、一刻早くも手入れをしなければ…――
刀身の欠け目をひとつずつ確かめ、砥石を滑らせる。
研ぐたびに、私の心も一緒に削れていくようだった。
◇◆◇
やがて、手入れを終えた部屋に静けさが戻った。
部屋の中は、あの時の血の匂いも消えて、ただ静かに灯が揺れている。
何度呼吸を整えても、心臓の鼓動だけがやけにうるさい。
鶴ちゃんの寝台の傍に座り、冷えた手を握った。まだ冷たいけど、手入れ前よりは温もりは戻っている――それだけで涙がこぼれそうになった。
「……もう、大丈夫だって言って…」
「驚いたか……って笑ってよ……」
誰に聞かせるでもなく、呟きが零れる。その時、握っている鶴ちゃんの指先が微かに動いた。
「っ……鶴ちゃん?」
身を乗り出した瞬間、ゆっくりと彼の白く長いまつ毛が震えた。
「……おお、起きたら泣いているとはな。はは、そんなに驚かせたか?」
「……あたりまえです……っ!」
堰が切れたように涙が溢れた。すると鶴ちゃんは、流れている涙に触れ、ふ、と笑った。