第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「あんず!鶴丸が怪我をしたっ」
「……っ!鶴ちゃんが?怪我の具合は!?」
「まだそこまでは、」
蜂須賀さんが言い終わる前に執務室を飛び出し、鶴ちゃんの元に急いで向かう。何を話せばいいだろう、とかそんなことはもう頭になかった。
彼が視界に入った瞬間、その白い装束が血で朱に染まっていることに息が止まる。
それなのに鶴ちゃんは笑っていた。いつものようにどこか悪戯っぽく。けれどその笑みの下で滴る血が、現実を突きつける。
「鶴ちゃん……っ!」
駆け寄った足が震える。触れれば崩れてしまいそうで、それでも彼の手を掴まずにはいられなかった。
「ははっ、驚いたか?」
「そんなこと言ってる場合じゃ……っ!」
気が気じゃなくて声が裏返り、握った掌から伝わる冷たい感触に不安が増す。
「……悪いな。ちょっと油断した」
その言葉が掠れた途端、鶴ちゃんの身体が傾いた。支えた腕に重みが落ちる。
――いやだ、…やめてっ!
頭の奥で叫びが弾けた。どんな驚きよりもこんな結末はいらない。