第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「…っ」
「なっ、おい…」
気が付けば嗅ぎ慣れない匂いに包まれていた。和泉守さんが私を抱き締めている…?
「っ、なに…っ」
自分の置かれている状況がわからなくて和泉守さんの腕の中から抜け出そうと藻掻くと、更に力強く私を抱き止めた和泉守さんが辛そうに言葉を吐く。
「黙ってこうされてろ!見るに耐えねぇでっけえ涙流しやがってよぉ!」
「っ、…ご、ごめんな、さいっ」
最初は鶴丸さんとの記憶を失くしてしまった自分に戸惑いしかなかった。それに対して私を一つも責めずに私の気持ちを優先してくれる鶴丸さんに申し訳なくて、可哀想で、どうにか記憶を取り戻したいと願った。
ずっと鶴丸さんと一緒に少しでも記憶が戻るように頑張っていたけど……でも…最近の私は記憶を戻すことよりも彼と一緒にいられることに喜びを感じていた。
だけど……鶴丸さんが時折見せる寂しそうな顔、何か思い出したんじゃないかと期待の眼差しの後の落胆の瞳。
私にそれを気付かせないように、気にするなと言いながら無理に作る痛々しい笑顔。
その笑顔の裏の悲しみが痛いほど伝わってきて…それが、頭からこびりついて離れない。