第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
鶴丸さんは目を見開き息を呑んでいる。
「すまない…っ――つい」
「わ、私こそびっくりしてしまってっ!ご、ごめんなさい!!……あの、お盆持っていきますね!もう夜遅いですから鶴丸さんも部屋に戻ったほうがいいですよ!お、おやすみなさい!」
私は逃げるように私室を後にして、厨に駆け込んだ。幸い厨には誰もいなくて助かった。
お盆をテーブルの上に置いてから、熱を持ってしまった唇をそっと指でなぞる。あれは…きっとキス以上の関係なんだよ、って知らしめるためにしたのだろう。
驚いたけど、…決して嫌ではなかった。
記憶はないに等しいけど…今の私は間違いなく鶴丸さんに惹かれている。…惹かれているどころか、好きになっている。
ドキドキとずっと忙しない音を立てている心臓に手を当てた。体が熱い。
暫く経っても忙しない心臓は落ち着かなくて、湯呑みをいつもよりゆっくり洗いそーっと部屋に戻ると、もう鶴丸さんの姿は部屋にはなかった。
鶴丸さんがいなかったことにほっとしたのも束の間、人気のない空気が不安を仰ぐ。
もし、このまま記憶が戻らなかったら…鶴丸さんは私から離れていってしまうのだろうか…―だって、彼が求めているのは以前の私であって、今の私ではない。