第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「あんず?もう寝たかい?」
「鶴丸さん?起きてます。ちょっと待って下さいね、今開けますから」
急いで着替え襖を開けると、お盆に湯飲みを乗っけた鶴丸さんが立っていた。
「身体冷やさないように、寝る前に温かいお茶でも、と思ったんだが入っていいかい?」
「はい、ありがとうございます!」
優しく笑った鶴丸さんが部屋に入ってきて、テーブルの上にお茶を置く。私は慌ててクッションを鶴丸さんの前に差し出した。
すると鶴丸さんは「お、サンキュー」と言ってクッションの上に座る。その横に自分のクッションを置いて私も座ると、湯気が立つ湯飲みからさわやかなりんごに似たような香りがふわふわと漂ってきた。
「ハーブティーか何かですか?」
「ああ、光坊が淹れてくれたんだが、何でもジャーマンカモミールといって睡眠の質を高めてくれるハーブらしいぜ」
「ジャーマンカモミール……初めて聞きましたけど……美味しい……光忠さんに私からも明日御礼を言っておきますね」
暫く他愛もない世間話をしながらお茶を飲んだ。二つの湯飲みが空っぽになった頃、もう夜も遅いからと鶴丸さんはお盆に湯飲みを乗っけた後立ち上がろうとする。