第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
それ以来、失った記憶を取り戻そうと幾度も鶴丸さんと出掛たり、恋仲の時に行ったというお店など回ったりした。鶴丸さんは嫌な顔一つせず私に付き合ってくれた。
その他にも一人で部屋に戻る私を待ち伏せて暗がりの中驚かせたり、変な音が出るクッションで驚かせたり…それはもうあの手この手を使って、私の記憶を手繰り寄せようとしてくれた。
そのお陰と言っては何だが…二人の距離だけはかなり縮まった気がする。はたから見れば恋人同士に見えるくらいまでには……
でも、肝心な鶴丸さんとの思い出だけは、どれだけ思い出そうとしても、どれだけ努力しても欠片も蘇ってこない。
―今日も鶴丸さんと大部分の時間を過ごした。
熱いお風呂に入った後、湯気で曇る鏡を手で拭って、自分の顔をじっと見つめる。曇りでぼやけた鏡に映るのは、なんの変哲もない女の顔。こんな、どこにでもいるような何の取柄もない私なんかの為に、鶴丸さんは自分の時間を削って付き合ってくれている。
考えてみれば記憶が戻るという保証なんてないのだ。このまま戻らなかったら…私たちはどうなってしまうのだろうか…?
すると、私室の襖の向こうから鶴丸さんの声がした。