第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「そんなことあるわけないよ!あんずちゃんは鶴さんのことどれだけ好きだったか鶴さんだって知っているだろう!?鶴さんの前でだけ眼鏡も外してお洒落して…鶴さんも気付いてたと思うけど着物も着れるように次郎くんに教わってたんだよ?それなのに、無かったことにしたかったってあるわけないじゃないか!」
「……知ってる…俺に内緒で次郎太刀に着付けを習っていた事も……」
記憶を無くす前のあんずの顔が、姿が鶴丸の脳裏に浮かぶ。
鶴丸の手を取り嬉しそうに頬を寄せるその仕草がいじらしい程に愛しかった。だけどその心はもう鶴丸のものじゃない。
なあ、どうして忘れちまったんだ?
あの夜が原因なのか…?
俺は…きみを失いたくないばっかりに、きみの気持ちも考えずに最低なお願いをした…だが、きみを失わずに済んだことだけは今でも後悔はしていない。
これは――そんな俺への天罰なのか……?
…――鶴ちゃん
…ねえ、鶴ちゃん
屈託のない笑顔を向けながらあんずが鶴丸を呼ぶその声が、鶴丸は好きだった。
どことなく刀剣達と一線を引いているあんずが、唯一鶴丸にだけは心を開いている。あんなに外したがらなかった眼鏡を、鶴丸の前だけは外してくれる、それが何より嬉しかった。
「鶴さん…」
「はは……おかしいよな。墓を暴かれてまで求められて呆れていた俺が、あんずにこんなに執着していたなんてな…」
鶴ちゃんって…きみが俺をそう呼んでくれる日はもう来ないのか?もうきみの綺麗な瞳はレンズ越しにしか見れないのか?レンズ越しにしか俺を映してくれないのか…―?
◆◇◆