第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
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あんずを驚かせることによって、ひょっとしたら記憶が戻るんじゃないかって期待したが…そんな簡単なわけないよなあ…――
人生には驚きが必要とはよく言ったもんだが…こんな驚きがあるなんて誰が想像しただろうか。
あんずにもう部屋には近付かないと伝えてから、鶴丸は何もする気になれず一人部屋に籠もっていた。幸い同室の大倶利伽羅と太鼓鐘は夜戦で部屋にはいない。
あんずが記憶を無くしてから皆が鶴丸に気を遣っているのが手に取るように分かる。だから広間は居心地が悪かった。
布団に寝転がって天井をひたすら見つめていると、音もなく障子が開いた。
「鶴さん…夕餉も食べに来なかったけど何かあったの?」
「……眠たかっただけだ」
「少しでも食べないと体に障るよ…明日出陣あるでしょ?」
部屋の隅にある座卓に夜食を乗せたお盆を置いた後、エプロンを外して手元で小さく折りたたんだ燭台切が、そっと遠慮がちに鶴丸の隣へと腰を下ろした。
「あんずちゃんのこと考えてたの?」
「…」
「鶴さん…本当に良かったの?あんずちゃんに鶴さんとのこと言わなくて…僕は、僕はね…」