第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「そう!そうなんです!ここはわらび餅が美味しいですよね!私もいつも…………」
「あんずちゃん?……」
「――えっと……誰と来てたんだっけ…」
このお店の事は何度も通ったからはっきり覚えてるし、わらび餅の味も昨日の事のように思い出せる。なのに、どうして誰と来たかが思い出せないんだろう…
…――まただ、また思い出せない。
急に俯向いて黙り込んでしまった私を、何も知らない葉月さんは心配と不安が入り混じったような表情で見つめた。
「あんずちゃん?どうしたの?何かあった?」
「あの…」
「そういえばあんず!すっかり忘れていた。この後約束があったじゃないか!葉月さんと言ったね?申し訳ないが話はまた今度にしてくれないか?」
「あ、そうだったんですね!あんずちゃんごめんね、忙しいのに引き止めちゃってっ」
「……いえ、こっちこそせっかく会えたのにすみません…」
用事なんてないという事はわかっている。きっと蜂須賀さんが咄嗟に機転を利かせてくれたんだろう。そのお陰で何とかこの場を切り抜けることが出来た。
私の記憶障害の事は葉月さんに知られることなく、彼女とはさよならして私達は本丸へと帰った。蜂須賀さんは私に気を遣ってか、葉月さんと話していた事に関して問いただしてくるようなことはしてこなかった。