第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
私の知る彼女の温もり…当時の懐かしい気持ちが溢れて背中に添えていた手につい力が入ってしまうと、掌にゴツゴツした肩甲骨の感触がした。それは、明らかに苦労をしたということがわかるような痩せ方だった。
「…今はどうしてるんですか?ひょっとしてまだあの職場に…?」
「ううん、退職したの…今は雑貨屋さんで働きながらなんとか生活してるよ。……可笑しいよね、あの頃は解雇宣告されるのが何より怖くて仕方がなかったのに、いざ退職してしまえばなんてことなかった…」
「そうなんですか…」
「もっと早くに退職してればあんずちゃんにあんな酷い事しなくて済んだ…本当にごめんなさい…」
皆、少なからず何かしらの苦労や葛藤を抱えて生きている。…―それがどんなものかは人によって様々だけど、結局は自分で向き合うしかないんだ。
勇気を出して一歩踏み出せば解決することだってあるのかも知れないのだから…
「もういいんです…大丈夫ですから…――それより!葉月さんもここのお店好きなんですか?」
話題を変えたいのもあり、自分が気に入っているお店の前で鉢合わせたので思わず聞いてみると、葉月さんは「あ…うん…ここのわらび餅は絶品だから…」と答えた。