第1章 君の中に墜ちる
これまで最低限のことしか話をしたことがなかった。
そして大倶利伽羅からも最低限の言葉しか返ってこなかった。
極になってから雰囲気が多少柔らかくなった、とは思っていたけど、だからといって関係性が、二人の距離感が変わったわけではなかった。
決して仲が悪いわけじゃないけど、無愛想だし私のことなんて興味がないのだ、そう思っていたのに…
――触れる手はこんなにも優しくて温かい。
その温もりの心地よさに安心してしまって、ただその大きな手にこの身全てを預けてしまいそうになってしまう。
だけど、大倶利伽羅が承諾してくれた今、記憶を失くす薬の事もきちんと話さなければタイミングを失ってしまう。
「大倶利伽羅…」
「…」
「あの…もし、大倶利伽羅が望むなら…無かったことにもできます…から」
「…どういう意味だ」
「記憶を消せる薬があると聞いています。それを飲んだらこの件、そして今夜のことも忘れることが出来るそうです。もし、大倶利伽羅がその方がいいなら、」
「必要ない」
「え…?」
「必要ないと言っている」
口調は苛立っているように感じたけど…大倶利伽羅の顔が少し浮かないような、寂しげに見えたのは…気のせいだろうか。