第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
私だけを見てほしい。
私だけの鶴ちゃんでいて…
その綺麗な瞳で他の女なんて、あの人のことなんて見ないで…写さないで…
「ん……ん…っ」
必死に彼にしがみついて唇を押し付けていたら、下唇をキュッと甘噛みされて重なり合っていた唇が離された。
「…こらこら、今日はここまでだ…酒が入ってるし最近のあんずは随分と疲れているように見える。だからもう寝た方がいい」
「…っ」
「顔色も悪い……きみに無理はさせたくないんだ。分かってくれ…」
私が今にも泣きだしそうだからか、鶴ちゃんは悲しそうな表情でそう言い、私の頭をゆっくりと撫でながら慈しむように額にキスをし、私から離れていった。咄嗟に彼の服を掴んで引き留めようとしたけど、私の手は鶴ちゃんの服を掴むことが出来ず、宙を掴んだだけだった。
彼が居なくなった静かな部屋には、夜の庭から微かな虫の声が暗い帳(とばり)を縫うように聞こえてくるだけ。それがより一層孤独を感じさせて涙が出た。
お酒の勢いを借りて勇気を振り絞って彼に甘えたのに、応えてはもらえず、挙げ句一人取り残されるはめになった。
もう…どんなに足掻こうと無理なのかもしれない。