第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
何か言おうと開きかけた口をキュッと引き結んでから、鶴ちゃんは私を抱いたまま歩みを進めた。
「や、やだ…まだ皆と…」
「もう駄目だ、大分酔ってるじゃないか」
「おー!!王子様の登場ってか!お熱いねぇ」
「酔ってないっ」
「はいはい、わかったわかった」
私の抵抗も空しく、皆にからかわれる中鶴ちゃんは「悪いな、お姫様は就寝の時間だ」と言い広間を出て躊躇なく私室に向かう。
意識はしっかりしている。だからまだ皆と一緒にいても大丈夫。……とはいえ、火照った頬に冷えた風が心地よく、何よりも大好きな恋人に運んでもらっているのが嬉しかった。
だけど…その一方でやはりあのお店で見た女の、頬を染めはにかんでいる顔が脳裏に浮かび…どうしようもない嫉妬に駆られ、縋るようにギュッと鶴ちゃんに身を寄せる。
段々と広間から聞こえる喧噪が遠ざかっていく中、バタバタと廊下を走る慌ただしい足音に混ざって「兼さん!こんなところで寝ないでよ」と漏れ聞こえる声。和泉守さんもお酒弱いのに今日は随分と飲んでたもんなぁと、少しだけふわふわする頭で考えながら、月明かりに照らされた縁側を鶴ちゃんに抱っこされながら通り過ぎる。