第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
「おっと…!大丈夫か?」
床に落ちそうになった湯呑を咄嗟にキャッチすると同時に、鶴ちゃんは私の身体も器用に支えてくれた。
最近頻繁に目眩がするのは貧血が酷くなっているのかも知れない。これは少し先にある健康診断で引っかかるかも、と気が重くなる。
「ごめんなさい、足が痺れて……」
目眩がしたと正直に言うと、きっと鶴ちゃんは私に無理をさせないように早く寝た方がいいと言うに決まっている。それが嫌で、もう少し一緒に居たい一心でつい誤魔化してしまった。
嘘をつかれたことと、あの女性と一緒にいる光景が頭から離れなくて、鶴ちゃんとの会話もろくに頭に入ってこないような状態だけど、それでも鶴ちゃんと少しでも一緒にいたかった。
お盆をテーブルの上に置き直してから、自然に私に触れてくるその大きな手に、いつも通り変わらない態度に少しだけ心が軽くなる。
「鶴ちゃん…?」
鶴ちゃんの私を支えてくれている手が暫く経っても放されないのを疑問に思い、顔を上げるとじっと見つめる大きな琥珀色が目の前にあった。ドキリと心臓が脈打ったのも束の間、きゅっと手を握られた。