第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
その顔は紛れもなく恋する女の顔で、女を見る鶴ちゃんもまた恋する男の顔だった。
簪は、朱色の玉飾りにチェーンが付いているのが見えた。まるで鶴ちゃんの戦装束についている兵庫鎖を思わせるデザイン。お揃いだ、お揃いだね、と二人で言い合っているような、窓越しでも分かるそんな甘い雰囲気に胸がツキリと痛んだ。
ショックで放心状態の私とは違って、般若のような形相をした蜂須賀さんがお店に向かって歩き出す。
「ま、まって!だめですっ」
「しかしあんず!あれは流石に見過ごせないだろう!」
「いいんです!もう帰りましょう……ね、……きっと誤解、ですから……何か理由があるんだと思います……」
「理由?一体どんな理由があるっていうんだ!」
「わからないっ!でもきっと何か…ッ」
蜂須賀さんの腕に抱き着くようにしがみつきながら訴えるけど、彼は険しい表情をしたままだ。それでも押し問答の末渋々承諾してくれた。
「あ……っ」
「大丈夫か!?」
葬儀帰りのような暗さで二人何も言葉も発せずに本丸に向かっていたら、突然めまいがして蜂須賀さんに慌てて支えられた。
「ごめんなさい、急にふらっと来てしまって…」