第3章 儚く切ない記憶の中で《後編》
そのお店は呉服屋で、窓際には綺麗な簪が所狭しと並べられている。鶴ちゃんが出陣や遠征に行っている合間を縫って、次郎さんに習っている着付けも、もうあと一息といったところだ。簪があると更に華やかになるかも!と私は一人胸を躍らせた。
「蜂須賀さん!あのお店ちょっと寄ってもいいですか!?」
「急にどうしたのかと思えば……ああ、別に俺は構わないよ」
心が弾み、ついらしくない大きな声で蜂須賀さんに声を掛けると、少し驚いた様子の彼だったがお店に視線を向けた後に察してくれたのかにっこりと笑い了承してくれた。そしてそのお店に入ろうと細くて狭い道路を渡りかけたとき。
見覚えのある白い影が店内に――
綺麗に着物を着こなした若い女の人の傍にいるのは、間違えるはずがない、確かに私の本丸の、私の恋人である鶴ちゃんだった。
仲睦まじい様子に思わず道路を横断しようとしていた足が立ち止まる。
「あんず?どうかしたか?……あっ…あれは!」
どうやら蜂須賀さんもうちの本丸の鶴ちゃんだと気付いたようだった。
鶴ちゃんは簪を一つ手に取り女の人の髪にあてている。女の人はそれを恥ずかしそうにしながらも、鏡越しに見える鶴ちゃんを熱心に見つめているように見えた。