第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
いつものおどけた様子ではなく、大人の色気を無駄に発している鶴ちゃんに耳元で言われて、ボンッと音が出そうなほどに顔が赤くなったのを自覚する。
そんな私をみて満足したのか、いつもの表情に戻った鶴ちゃんは笑いながら浴室を出て行った。
一緒に入るなんて、まだ体の関係にもなっていないのに…と一人で良からぬことを考えてしまい、異常にドキドキしながら雨に濡れ重たくなった衣類を脱ぎ、とりあえず床の隅に置いて浴室に足を踏み入れた。
お風呂はもうお湯が張ってあり湯気が立っていた。さすが高級旅館と言えるような至れり尽くせり状態に感心するばかり。
今日は思わぬ雨で非常事態だったからやむを得ず鶴ちゃんがここに連れてきてくれた。恐らく雨が落ち着くまでの滞在なんだろう。こんな素敵な所、すぐ帰るのは勿体無いなぁ、と思ったけどお泊りしたい、なんて言う勇気も生憎持ち合わせていない。
お風呂に入っている間、鶴ちゃんが驚き目的でお風呂場に乱入してくるんじゃないかとドキドキしていたが、そんなことは要らぬ心配だったようで。
入ってくるどころか物音一つしなかった。なんだか期待していたみたいで恥ずかしい。