第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「本当かい?辛かったら遠慮なく言ってくれよ?」
「うん。コホっ…ありがとう。私も少しは体力つけなきゃね」
ふらつく体を支えられながら笑って答えると、鶴ちゃんは少し安堵の表情を見せた。
軒先で雨の滴る服をぞうきんのように絞っていたら、入口の自動ドアが開く音がして振り返ると、ニコニコした女性にタオルを差し出される。
「良かったらどうぞお使いになって下さい」
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言いタオルを受け取って、顔や髪の毛を拭いていると、鶴ちゃんと女性が何やら話をしている。お互いの表情からいって、初対面ではなさそうな感じがした。
低い位置でシニヨンにした髪。和服が良く似合う美人で、右目のしたにあるほくろがとても色っぽい。見るからに若女将といったような感じだ。
洋装の私と違って、着物の女性は同じく和装の鶴ちゃんと並んでいる姿がとてもお似合いに見えた。
そんな風景を見ているとチクリと胸が痛む。
雨の音で何を話しているのかはわからなかったけど、話がついたのか中にどうぞと促された。
女性に気を取られていたから今更ながらに気付いたけど、よくみると高そうな旅館である。こんなところに高級旅館があったなんて全然知らなかった…