第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「このままじゃ拉致があかないな」
「仕方がないから走って帰ろう?私は平気だよ?」
ザーザーと激しい音を立ててバケツをひっくり返すような勢いで振り続ける雨。本丸に連絡して傘を持ってきて貰ったところで、この激しい雨ではその男士までずぶ濡れになりそうだし意味はなさそうだ。
遥か遠くまで黒っぽい灰色をしている空を眺めながらこれは止みそうにないな、と溜め息を吐く。
仕方がないよ、もう出発しよう?と雨を見つめながらもう一度呟くと、鶴ちゃんは突然「俺に付いてきてくれるか?」と私に問い掛けた。
鶴ちゃんにならどこだって付いていくよ。そう伝えると、彼は優しく微笑んでから自身の羽織を脱ぎ私の頭に被せた。そして私の手を握り駆け出す。
体力がない私は何度か足がもつれて転びそうになったけど、前のこともあってか鶴ちゃんは私が転ばないように注意を払ってくれている。暫く走り、目的の場所に着いたときは二人共ずぶ濡れになってしまっていた。
息切れと共に咳き込む私を鶴ちゃんが心配そうに見つめる。
「あんず大丈夫か?随分と酷そうだが」
「ゴホッ……ん、大丈夫だよ?はぁ…只の運動不足なだけだろうから心配しないで。少しの休憩で治まるから」