第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「ん……ッ!!」
こんな深いキスなんてしたことがなくて、どうしたらいいかわからず鶴丸さんの胸を懸命に押してしまっていると、見かねたのか絡んでいた舌が離され、互いの唾液で濡れた唇が遠ざかっていった。
「あんずの反応が可愛くて、欲が出て止まれなかった……」
「急、過ぎます…っ」
「ははっすまんすまん。……驚いたかい?」
「もうっ」
恥ずかしさの余り悪態をついていたら、また鶴丸さんの顔が近付いてきて見つめられた。
「きみが、……好きだぜ」
真っ直ぐに見つめられて紡がれた言葉の破壊力が凄まじく、息が止まる程に硬直してしまっていたら、今度は優しく、そっと唇が重なった。
手は少し冷たいのに、唇は柔らかくてとても温かかった…
それから鶴丸さんとの交際が始まった。鶴丸さんは優しくて、一緒にいると楽しくて。
だけど、その一方で彼の主であること以外取り柄のない自分が彼の恋人だなんて信じ難かった。
デートをする度に、万屋街のショーウインドウに並んで映る自分と鶴丸さんを見る度に、どうしても劣等感を感じてしまう。そんな自分が嫌だった。