第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
【#5 やすらぎ】
なんとか気持ちを押し殺して本丸に帰還し、蜂須賀さんに夕飯はいらないと告げた。
彼は酷く心配している様子だったが、私が何も言わないからかそれ以上は聞かずに「一人で背負わずに何でも話してくれて構わない。俺達はどんな時でも主の味方だ。それだけは忘れないでくれ」と言い残しその場を去った。
彼の優しさに泣きそうになったけど、唇を噛みしめなんとか堪える。
執務室に入った途端我慢していた涙が決壊し、つーっと頬を流れた。そして涙が流れてしまったことにより、押し殺していた感情までがどっと溢れ出す。
「ふ、……ぅぐ…っ」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。何がいけなかったのか…ポタポタ流れる涙が頬から流れ落ち、執務室の畳にシミが広がっていくのが、曇っていく眼鏡のレンズ越しにぼんやりと見える。
「きみ、帰ったのか?随分と時間がかかったんだな。政府からの話とやらはなんだったんだ?」
一人声を押し殺して泣いていたら、襖の向こうから声がした。
こんのすけか、他の男士から聞いたのだろうか。私が政府に呼び出されたときは鶴丸さんは遠征の真っ最中だった。だから政府に行ったことも彼は知らないはずなのに。