第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「聞いているのか!!!」
とうの私は、女ばかりの穏やかな家庭で育ったこともあり怒鳴られることに免疫があるわけでもなく、動機が激しくなりついには頭に靄がかかったように、上役の怒鳴り声もどこか遠くで聞こえるような状態に陥っていた。
ひたすら嵐が過ぎ去るのを黙って待つしかなかった。
覚えのない罪を着せられ罵倒され続けて、やっと上役の気が済んだ頃には夕日が空を赤く染めていた。
不幸中の幸いか、私が審神者だということでそれ以上の責任は問われなかったけど、審神者だからっていい気になるなとか、いい男をはべらせて何か勘違いしているんじゃないかとか、的外れなことまで言われた気がする。
上役や葉月さんがその場を辞しても、しばらくの間放心状態に陥り動くことが出来ずにいたが、ふいに蜂須賀さんの顔が浮かび、ふらりと部屋の出口へと向かった。
行きと違って案内役がいない中、とぼとぼとエレベーターに一人乗り、シンとした無機質な空間で、悔しいとか、どうして、とか悲しい感情が津波のように押し寄せてきて、泣きじゃくりたいのを堪えるのに必死だった。
エレベーターを降りたところで、暫しの間心を落ち着かせる時間をとり、その後蜂須賀さんが待機している部屋へと向かう。
「あんず、大丈夫だったのか?何の話だったんだ?」
「…」
「あんず?」
「っ、あ、…そ、れほど重要な話じゃなかった、です…」
蜂須賀さんに心配をかけたくなくて平静を装うのが精一杯だったが、内側の感情は酷くどろどろしていた。