第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「綺麗な服が汚くなっちゃうっ」
「装束なんかよりあんずの方が大事に決まってるだろ?」
困ったように小さく嘆息して、少し呆れさえ滲ませているような音色だったけれど、彼の表情はいつになく真剣だった。
鶴丸さんは側にあるベンチに私を座らせてから、私の前に腰を下ろして丁寧に汚れた足の泥を拭いていく。
距離感が近い。目の前に鶴丸さんの長い睫毛が揺れ動いている。伏せられている瞼から伸びる睫毛は白いからだろうか、とても長く感じて見惚れてしまう。
眺めている内に段々と頬に熱を持っていくのがわかり、悟られぬようにそっと顔を背けた。
『あんず』が大事だ。まるでそれを証明するかのように、私の足に触れる手は、壊れ物にでも触れるかのように優しい。
「痛そうだな…俺が付いていながら悪かった…」
手当てを終えた鶴丸さんが眉を下げて、私の傷を見つめながら呟く。
「私が勝手に転んだだけですから。…それに鶴丸さんが手当してくれたおかげでもう痛くないですよ?」
「きみは優しいな。……ほら」
「え」
「その足じゃ歩けないだろ」
「こ、こんな泥だらけの私なんかおぶったりしたら背中まで汚れちゃいます……私は自分で歩けますし、こんな怪我平気平気っ」