第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
鶴丸さんの前にはお茶が入った湯呑だけ。そういえば注文もわらび餅セット一つしかしていなかったような…?
「鶴丸さんは何も注文しないのですか…?」
「俺はさっき執務室で沢山菓子を食べたし、今日はきみの為に来たから気にしなくていい。それより早く食べてみてくれ」
「でも私だけ頂くなんて…」
「今日は遠慮はなしだ」
「えっ…でも」
「いいから、ほらほら」
「じゃぁ、……頂きます…ね」
無邪気に催促されて、プルプルのわらび餅を木製のスプーンでひと掬いし口に含む。
その途端口いっぱいに広がるきな粉の香ばしさと黒蜜のコク…。そしてそれを追うように舌の上であっという間にとろけてなくなってしまうわらび餅。
わらび餅はそんなに食べたことがなかったけれど、今まで食べた中で断トツに美味しかった。
「美味しいです!!なにこれ…え?本当に美味しい!これわらび餅ですよね…?」
「ああ、うまいだろ!」
「はい…!わらび餅ってこんなに美味しかったんですね…」
連れてきてもらったから、とか、鶴丸さんに勧められたから、とか、そんな理由で大袈裟に言ったわけではなく本当に本当に美味しくて、食べる手が止まらない。