第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「迷っているなら、これがおすすめだぜ」
どうやら彼は、私が見惚れていたのを、どれを食べようかと迷っていて決められないのだと勘違いしたらしい。
「あ、…じゃあ…それにします…」
見惚れてしまっていただけです、なんて言えるわけもなくそう答えると、鶴丸さんは慣れた様子で隣のテーブルを片付けていた店員さんに声を掛け、わらび餅セットを一つ注文してくれた。
そんな彼の行動をしばらく眺めていたが、そういえばお財布を持ってきていないことに今更ながら気付いた。
それどころかカバンさえもない…強引に連れてこられたのだから仕方がないとはいえ、手ぶらでお店に来てしまった事実に段々と血の気が引いていく。
「つ、鶴丸さんっ!どうしよう!私お財布持ってきてないです!」
「何事かと思えばそんなことか。俺が持ってるから心配はいらない」
焦り、慌てる私とは反対に落ち着いた様子の鶴丸さんは、俺の奢りだ、任せておけ!と満面の笑みで言う。
無銭飲食は免れたことに安堵するが、払ってもらう鶴丸さんに申し訳なく思いつつも…財布がないので仕方なく同意した。
そんなやり取りをしている間に美味しそうなわらび餅が私の目の前に置かれた。