第2章 儚く切ない記憶の中で《前編》
「そう言われましてもっ…困るんです、だから降ろして…ッ」
「なぁ頼む。今日一日このまま出かけると言ってくれないか。じゃないときみの願いは聞けないな」
「そんなっ……と、とにかく今は降ろして…」
眼鏡も取り上げられた上に、あまりにも近い距離に私はもういっぱいいっぱいで、バカの一つ覚えのように降ろしてとしか言えなくなっている。
そんな私を気にする様子なんて微塵も鶴丸さんからは感じられなくて、きっとからかわれているんだと思った。
だとしても眼鏡も返して貰えそうにないし、鶴丸さんの膝の上からも降ろして貰えないし、彼の顔がすぐ傍にあるし!
どうにかこの状況を変えたくて、もうどうにでもなれ!と私は叫ぶ。
「わ、わかりましたからっ眼鏡はかけませんから降ろしてください!」
すると鶴丸さんはなんとも嬉しそうな顔をしてから「そうこなくっちゃな」と言いながら袖に私の眼鏡をしまった。そして今度は丁寧な手つきで私の足に靴を履かせる。
「あの、自分で履けますから…」
すぐ傍にあった端正な顔からは逃れられたものの未だ恥ずかしい状況に主張するも、当然聞き入れてもらえず両足ともに靴を履かされてしまった。
気まずいながらもお礼を言って立ち上がると、間髪入れずに私の手を引き軽快に歩き出す。
即断即決。強引すぎる鶴丸さんに、慣れない私はついていくのがやっとだ。