第25章 王都の舞踏会
「本縫いは今夜から明日にかけて… 我が “ディオール” の威信にかけて…」
エステルは背後に控えているジャドと本店から派遣された応援部隊の二人に、ちらりと熱い視線を投げた。
「……必ず仕立て上げてみせます。そしてペトラ様、マヤ様… 恐れ入りますが明朝に今一度こちらへお越しいただき、最終のフィッティングチェックをおこなうためのご試着にご協力くださいまし」
……えっ、明日も来るの!?
声には出さなかったが、二人ともそう思った。
「最終のチェックが終わりましたなら微調整をいたしまして、ドレスは本店に送ります。本店で我が “ディオール” 創設者であるデザイナーのベルナール・ディオールがドレスに目を通してから、グロブナー伯爵のお屋敷にお届けします」
立て板に水のごとく一連の流れを説明したエステルは、ここで一旦言葉を切り、こほんと咳払いをした。
「……こういう流れで仕立てていきますが、よろしいでしょうか?」
「「はい」」
「何か、ご質問は…?」
「「いえ」」
ペトラとマヤはよろしいも何も、全くもってドレスに関して無知すぎて、何もわからない状態である。同様に、ご質問も何も、何がわかっていないかもわからない状態なのである。
だから二人そろって “はい” “いえ” と答えるしか選択肢はなかった。
「はいやっ!」
ガラガラガラガラ。
調査兵団の兵舎正門前でペトラとマヤをおろして馬車は、勢いよくヘルネの街に向かって去っていく。
それをぼうっと疲れた様子で見送った二人は、顔を見合わせた。
「……帰ってこれたね…」
「うん…。お疲れ…」
「お疲れ…」
「……団長に報告… だよね?」
「さすがマヤ…。部屋に帰って寝そうになったわ」
「寝るのは昼間にいっぱい寝たじゃない」
マヤが笑うとペトラは苦笑いをした。
「そうだけど、なんかそれ以上に疲れてさ…」
「さぁ、最後のひと仕事だよ。行こう、ペトラ」
「了解」
二人が重い足取りで団長室へ向かおうとしたとき、名を呼ばれた。
「ペトラ! マヤ! 遅かったな!」
声のした方を見れば、オルオが駆けてくる。