第25章 王都の舞踏会
「ジャド! あなた、何を言っているの?」
「だってエステル様、どんなに急いだって最低一か月はかかります! それを一日でだなんて無謀にもほどがあります!」
「そんなことはわかってるわよ。本店だって承知している。でも貴族に… それも今、飛ぶ鳥を落とす勢いのグロブナー伯爵に命じられたらね… やるしかないのよ! やらなければ…、伯爵の機嫌を損ねたりなどすれば…」
エステルの声が少し震えている気がする。
「うちは… つぶされる…」
ペトラとマヤは眉をひそめて互いの顔を見ている。
二人は王都の仕立屋のことなど何も知らないが、それでもこうやってヘルネにこんな立派なショールームや店舗を出す “ディオール” が、かなりの業界大手だということくらい理解できる。
そこが、貴族の機嫌ひとつでつぶされる。
二人が青ざめていると。
「大丈夫よ、ジャド。伯爵に逆らえないとはいえ、あまりにも時間がないことくらい本店もわかっているわ。だからフルではなくセミでいくのよ。セミならなんとかなるわ」
……ふる?
……蝉?
ペトラとマヤの疑問などおかまいなくエステルの話はつづく。
「本来、貴族の注文なら何がなんでもフルでいくところだけど、そこはさすがに伯爵もご理解いただけているみたいなの。なんでも… ご子息のたっての希望でペトラ様を急遽ご招待したらしいから…」
そう言ってエステルは、ちらりとペトラに視線を投げた。
「……本店もセミでGOサインを出しているのよ。わかったわね?」
「はい…。セミでも一日というのはどうかと思いますが、色々と工夫をすればなんとか…」
働く前からやつれてしまった様子のジャド。
「そう! なんとかなるわ。午後には本店から応援が来るし… それに、この私も縫うんだから」
「えっ、エステル様が!?」
ジャドの顔が輝いた。
「そうよ。皆で徹夜で縫えば、必ず仕上げられるわ」