第25章 王都の舞踏会
なにげなく値札を見てしまったペトラが顔面蒼白になって、マヤの袖を引っ張る。
「……何…?」
ささやくマヤに、ペトラが無言で値札を指さす。
「………!」
マヤも血の気を失った。
「……どうしよう。こんなの払えないじゃん!」
ペトラが泣きそうな顔になっている。
「……でも、ドレス代はペトラを指名した貴族が払うんじゃないかな?」
「そう思いたいけど、一部は払えとか言われない?」
「……さぁ、どうだろ…」
こそこそと話していると、耳ざとく聞きつけたエステルが笑う。
「おほほほ! そのような心配はご無用! グロブナー伯爵が金に糸目はつけない、いくらかかろうともかまわぬ、ペトラ様に最高峰のドレスをと仰ってますのよ?」
「「………」」
途方もない話にペトラとマヤは顔を見合わせることしかできない。
「伯爵にそのように言わしめるなんて…、ペトラ様はどこぞやのご令嬢でいらっしゃいますの?」
「いえ…! 全然違います! 普通の庶民の一般兵士です!」
「あら…、そうですの…」
伯爵に無尽蔵の資金を注ぎこませるペトラは、名だたる家柄の令嬢に違いないと予想し、あわよくば今回だけではなくこの先もずっと取引を… などと目論んでいたエステルは拍子抜けする。
だが今は、長期的な展望よりも目の前の利益だ。
……とにかく時間がないのよ!
ぐっと眉のあたりに力をこめて、拍子抜けして一瞬脱力したおのれの顔を引きしめると、エステルは大声で弟子を呼んだ。
「ジャド! ジャドはいないの!?」
ほんの数秒ほどおいて、奥に通じる扉から小柄な娘が出てきた。
「はい、ここに」
「クリスから聞いてるわね? こちらはペトラ様とマヤ様。明日の午後には仕立てたドレスを本店に送らなきゃいけないのよ。早速、お二方の採寸を…」
「……あの、エステル様…」
エステルの言葉を申し訳なさそうにさえぎったジャドは、
「たった一日で縫えなんて無理です!」
と顔を真っ赤にして、叱られるのを覚悟した瞳をぎゅっと閉じて叫んだ。